ケロイドとは
- けがや手術による傷が治癒していく過程で、その傷を埋めていく組織というのが過剰に増殖してしまうことで、しこりのようになっている状態がケロイドです。この見た目ですが、お餅が引き伸ばされたような特徴的な形態を呈し、進展する周囲は発赤し、中央部は退色して扁平化します。なおケロイドは時間がゆっくりではあるものの、傷の範囲を超えて進行し、周囲に拡大していくのが特徴です。
- ケロイドには発症しやすい体質があるとされ、遺伝や何かしらのアレルギー素因を持っている、あるいは内分泌ホルモンの異常といったことが原因で起きるとも考えられていますが原因は特定されていません。ケロイドを発症しやすい方の中でも、起きやすい部位と起きにくい部位があり、胸部の中心部分、肩、上腕外側、背中の上部、下腹部など、皮膚の緊張が比較的強いとされる部位で発生する傾向にあると言われています。上眼瞼などの皮膚の伸展性が良い部位や下腿前面のように皮膚の可動性がほとんど無い部位にはケロイドは発生しません。ケロイドは手術やけがの痕だけでなく、にきび痕や自覚症状がなかった小さな傷からでも発生することがあります。
治療について
保存的治療
- ①
- トラニラスト(リザベン®)内服:広く用いられており、線維芽細胞増殖抑制、コラーゲン合成抑制に作用します。
- ②
- ステロイド外用・貼付、局注:重症度により塗り薬(外用薬)、貼り薬(貼付剤)、局所注射(局注)を使い分けます。
まずはベリーストロング・クラスの外用剤(アンテベート軟膏®など)を用いる外用療法を行います。通常はヒルドイドソフト軟膏®などの保湿剤を併用します。外用剤のみで効果が不十分の場合には貼付剤(エクラープラスター®、ドレニゾンテープ®)を用います。それでも効果不十分な場合や疼痛などの自覚症状が強い場合には、ステロイド剤を病変部に直接局所注射(局注)する方法を行います。
局注にはトリアムシノロン懸濁液(ケナコルト®)が一般的に用いられ、局所麻酔剤と等量で混合して注射します。ロック付きシリンジを用い、注入圧の変化や表層の変色(少し白くなる)を参考にしながら、注入に適切な「層」を見つけることが治療効果を高めるコツです。1回投与量は10mg以下、投与間隔は4週間が標準ですが、若い女性では生理不順を生じる可能性があるため1回の総量が5mgを超えないように注意します。有効例では2~3回の局注で瘢痕部の盛り上がり、発赤、硬さ、疼痛などが改善します。術後の補助療法としての効果も期待できます。 - ③
- 被覆材:シリコンジェルシート(シカケア®、など)、ハイドロコロイド製剤(ピタシート®、デュオアクティブET®、など)を病変部に貼付します。湿潤性を保持することに意味があると考えられています。有効例では使用後2〜3週ほどで瘢痕部の疼痛、掻痒感、さらに外見面での改善が確認できます。
- ④
- 圧迫療法:患部にレストンスポンジなどを当て粘着テープなどを用いて圧迫する方法です。術後の再発予防として用いることが多いです。
外科的治療
外科的治療では、ケロイドを手術で切除します。ただし、単に病変部を切除しただけでは再発して、さらに大きくなることがあります。そのため、術後に放射線治療やステロイド局所注射を併用しなければなりません。なお、外科的治療は根治ということに対して最も有効とされる治療法です。
外科的治療と術後放射線治療の実際
- ケロイド・肥厚性瘢痕が切除可能な大きさであれば、全切除術を行い縫縮しZ形成術を施行します。Z形成術とは二つの三角皮弁を入れ換える有茎皮弁で、切開線の形からZ形成術と呼ばれます。2点間の距離の延長効果や緊張の分散効果があります。病変が大きい場合には全切除術後に全層植皮術、あるいは部分切除術後に拘縮解除術を行います。
- ケロイドでは術後に補助療法(放射線治療やステロイド局注など)を行います。術後放射線治療は術後早期( 24〜48時間以内)に開始し、前胸部、肩-肩甲部、恥骨上部では20Gy/4分割、耳垂部では10Gy/2分割、その他の部位では15Gy/3分割、を照射します。
- なお当院では川崎医科大学総合医療センター放射線科と協同してケロイド手術を行っています。ケロイドでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
術後管理
トラニラスト内服や圧迫療法などを適宜施行しながら術後3か月までは2~4週毎に、術後1年半までは1〜2か月毎に通院していただき、ケロイドの再発徴候がないか外来で経過観察させていただきます。ケロイドの再発は大半が術後1年半以内に見られますが、ときに2年以上経ってから再発する症例もあります。なので、術後1年半以降においても3~6か月毎の経過観察が望まれます。再発病変の早期発見に、臨床写真を用いた経時的な経過観察が有用です。
参考文献
- 牧野英一
- 「手術療法を術後補助療法を早期に施行したケロイドの5例」、日本皮膚科学会雑誌:127(7), 1549-1556, 2017.
手術療法と術後補助療法を早期に施行した ケロイドの5例 - 牧野英一
- 「ケロイド・肥厚性瘢痕」、皮膚科研修ノート(診断と治療社):505-507, 2016.
粉瘤とは
- 粉瘤は表皮嚢腫や類表皮嚢腫とも呼ばれ、皮膚の陥入によってできた袋状のものの中に角質のかたまりが溜まってしまうことで発生した半球状の良性腫瘍になります。その多くは直径にして1~2cmほどのものが大半ですが、ごくまれに10cm以上の大きさになる粉瘤もあります。発症部位としては、頭頸部、体幹上部、腰臀部といった箇所でよく見られます。数については、単発性に1個という場合もあれば、複数が同時に多発することもあります。このほかにも外傷によって、手のひらや足の裏で発生することもあります。
- また粉瘤は顔や背中などにできると、ニキビと間違われることもあります。見分ける方法としては、粉瘤には中央に黒点状の開口部があります。また、痛みやかゆみといった自覚症状が見られることはありませんが、指などで患部を圧迫すると臭いを伴う粥状の物質が開口部から排出してきます。ただし、上記のように嚢腫壁を破るなどして細菌に感染するなどすると発赤や痛みが出るようになります。このような状態になると炎症性粉瘤と診断されます。
治療について
- 治療が必要という場合、粉瘤に炎症がなければ外科的な摘出、つまり手術療法による除去になります。粉瘤自体は良性腫瘍ですが、腫瘍自体が大きくなりすぎている、あるいは悪性化する可能性があると医師が判断した場合に行われます。よほど巨大な腫瘍でない限りは、局所麻酔による日帰り手術になります。なお炎症を起こしているのであれば、抗生物質を内服するほか、小さく切開して膿を出します。除去が必要であれば、炎症を抑えてから手術となります。
- 当院では粉瘤を疑った場合、まずは体表エコーにて嚢腫を確認し、その腫瘍径を計測し、境界明瞭・不明瞭、存在する深さ、周囲組織との関連性、血管増生の有無、などを判定し、手術計画を立てています。粉瘤は良性腫瘍ですから、急いで取る必要はありませんが、自然治癒することはありませんので、いずれは摘出術を受けられることをお勧めします。
脂肪腫とは
- 脂肪腫は成熟脂肪細胞が増生した良性腫瘍で、腫瘍細胞は薄い結合組織性被膜で囲まれていることを特徴とします。多くは皮下脂肪織内から筋膜上に発生しますが、ときに筋間や筋肉内に生じることがあります。多くは痛みなどの自覚症状はありませんが、発生部位によっては神経を圧迫し、痛みや不快感が出ることもあります。脂肪が蓄積しやすい40〜60歳に好発し、20歳未満にみられる事は稀です。通常皮膚には変化はなく、平坦かやや隆起するのみです。
- 脂肪種は全身どこの部位でも発生する可能性があります。大きさは5cm以下のものが多く(平均3cm)、10cm以上のものは稀です。良性の場合がほとんどですが、10cm以上のものは稀ではありますが悪性化する可能性もありますので、造影MRI検査を施行します。良性腫瘍のためしばらくの間経過観察することもありますが、切除しなければ生涯にわたり消えることはないため、増大傾向、圧迫症状、整容面での患者さんの希望がある場合に手術を計画します。
超音波エコー
超音波エコーを用いて腫瘍の性状を評価することは診断に役立つだけでなく、腫瘍の存在部位を知るのに有用ですので、当院では術前に必ず施行しています。脂肪腫はほとんどの場合筋膜上に接して存在しますが、筋層の下や筋間に生じることがあり、超音波エコーにより明らかになります。
摘出術の実際
まずは腫瘍直上の被覆皮膚にしわができる方向(Langer皮膚割線)に沿って切開線をデザインします。脂肪腫は柔らかく変形するので切開線は腫瘤よりやや短くても摘出可能なので、腫瘍の長径の約1/3を目安とします。被覆皮膚を切開してから皮膚面に垂直に皮下組織を剥離して腫瘍被膜表面を露出し、その被膜に沿って摘出するように心がけます。腫瘍を確認した上で、その周囲を可能な範囲内で剥離し、皮膚表面から圧をかけて脂肪腫を揉み出します(squeeze technique)。周囲との癒着が強く摘出できないときには、切開線を広げるなどして底面まで剥離し摘出します。
参考文献
- 牧野英一
- 「脂肪腫」、エキスパートから学ぶ皮膚病診療パワーアップ(中山書店): 247-250, 2018.
熱傷とは
- 熱傷とは、一般的にはやけどと呼ばれているもので、主に熱などの刺激によって皮膚や粘膜が損傷している状態のことです。やけどは、その程度によってⅠ~Ⅲ度に分類され、それぞれ治療内容が異なります。Ⅰ度熱傷は、表皮のみのやけどになります。症状としては、ヒリヒリした痛み、皮膚に赤みが見られるなどの症状がみられます。この場合の治療法は、主に乾燥を予防する軟膏やクリームの塗布になります。
- Ⅱ度熱傷とは、やけどが真皮にまで及んでいるケースを言います。この場合、水ぶくれやヒリヒリした痛みが現れるようになります。またⅡ度では、さらに浅達性Ⅱ度熱傷と深達性Ⅱ度熱傷に分類されます。浅達性Ⅱ度熱傷は、患部で赤みの症状がみられた後に水疱が形成されている状態です。この水疱が破れてしまうと傷に変わります。ただ浅達性であれば、軟膏や傷を湿潤状態で保護する創傷被覆剤(湿潤療法)を行うことで、痕が残ることはなく、2週間ほどで治癒していくようになります。
- 一方、深達性Ⅱ度熱傷は真皮深層まで損傷が達してしまった状態で、これは瘢痕が残る可能性があります。症状に関しては、浅達性と同様に患部に赤みが出て、次第に水疱を形成するというようになりますが、水疱の底が白色調となり知覚が鈍麻し、痛みをあまり感じなくなります。II度熱傷の保存的治療ではbasic fibroblast growth factor製剤(フィブラストスプレー®︎)の使用を考慮します。II度熱傷におけるフィブラストスプレー®︎の使用は日本熱傷学会による熱傷診療ガイドライン(改訂第2版)において推奨度Aとされており、上皮化の促進以外にも肥厚性瘢痕の予防の効果や傷跡が治った後も周囲皮膚とのカラーマッチに優れる、といった効果があるとされています。
- Ⅲ度熱傷は一番ひどい熱傷のことを言います。これは皮膚のすべてが損傷している状態で、乾燥や痛みを感じることもありません。なおⅢ度熱傷と深達性Ⅱ度熱傷では、皮膚が壊死していることがほとんどで細菌感染が起きやすくなっている状態です。このようなことから壊死組織を除去していくデブリードマンと、皮膚を移植する手術(植皮術)を行っていきます。
皮膚潰瘍とは
- 皮膚潰瘍とは、何らかの原因で皮膚や粘膜が障害を受けてしまい、それが進行してしまうことで上皮の組織が欠損している状態を言います。
- 本来であれば、傷を受けたとしても自然治癒能力が働くわけですが、他の病気に罹患している患者さん(糖尿病、閉塞性動脈硬化症、膠原病 など)の場合、この働きが鈍くなってしまい、皮膚潰瘍を起こすようになるのです。寝たきりでいる場合、布団やベッドなど外部に触れている部分の皮膚が、長い間圧迫され続けていると血流が不足するようになるのですが、これが皮膚潰瘍を招くこともあります(褥瘡または床ずれ)。
- 治療の基本は病態に応じた適切な外用治療を行うことです。下腿潰瘍では原因となる静脈瘤の評価を行ったうえで、弾性ストッキングや弾性包帯を用いた圧迫療法を行います。また皮膚潰瘍で怖いのは感染症を合併させてしまうことで、このような状態になると生命にも影響が及ぶようになることから、壊死(組織が局所的に腐ってしまうこと)した皮膚を取り除かなくてはなりません(デブリドマン)。
- また褥瘡による皮膚潰瘍であれば、予防対策も重要です。これを怠ってしまうと、また同じ部位に褥瘡ができるようになるからです。その対策とは、患部への圧迫をできる限り避ける、適切なスキンケアをしていくといったことです。