- 乾癬
- 掌蹠膿疱症
- 結節性痒疹
- 扁平苔癬
- 類天疱瘡
- アトピー性皮膚炎
- 帯状疱疹
- 蕁麻疹
- 尋常性白斑
- 脂漏性皮膚炎
- 肥厚性瘢痕
- ニキビ
- 手湿疹
- 接触性皮膚炎
- 皮脂欠乏性湿疹
- 足爪白癬(水虫)
- 尋常性疣贅(イボ)
- 伝染性軟属腫
- 蜂窩織炎
- 皮膚がん
乾癬とは
当院は日本皮膚科学会が認定する「乾癬に対する生物学的製剤使用承認施設」であり、重症の乾癬患者さんに対する生物学的製剤の導入は当院で行うことができます。
- 乾癬は炎症性角化症の一種で、まず紅斑(血管拡張により生じる紅色の斑)がみられるようになります。紅斑は散在して出現し、その大きさは直径数mmから10cm大くらいです。その後、紅斑ができた皮膚表面は、銀白色の細かいかさぶた(鱗屑)で覆われるようになっていきます。さらに時間が経過すると皮膚は盛り上がり、表面の鱗屑がフケや魚のウロコみたいにボロボロと剥がれ落ちるようになります。
- 発症のメカニズムですが、これは表皮の炎症と表皮細胞のターンオーバーの亢進によって、乾癬の皮疹が現れるとされていますが、本当の原因は不明です。主な症状に関しては、約半数の方にかゆみの症状があるとされ、好発しやすい世代として青年~中年期世代の男性患者が多いと言われています。また、乾癬は良くなったり悪くなったりを慢性的に繰り返していきます。
- 乾癬には5つの種類があります。その中でも乾癬患者全体の約9割に当たる方が発症しているのが尋常性乾癬です。主な症状は先に乾癬の症状として説明した通りですが、紅斑については、頭部、肘・膝、臀部、下腿伸側などによく見受けられます。
- このほかの種類としては、尋常性乾癬と皮疹の程度は変わらず、1㎝ほどの紅斑が見られる滴状乾癬、重症のタイプとされる膿疱が主体の膿疱性乾癬、全身に発疹が及ぶとされる乾癬性紅皮症、爪の変形や関節炎を伴う乾癬性関節炎があります。乾癬を診察する際には、皮疹のみではなく、関節炎の正しい診断、評価を心がけることが必要です。日本では乾癬の約15%で関節炎を伴うと言われています。関節の痛みを感じたら、診察時に遠慮なくご相談ください。
治療について
治療に関しては、主にステロイド外用剤やビタミンD3外用剤が使用されます。またPUVA療法(薬を塗布、あるいは服用した後に波長の長い紫外線をあてる)やナローバンドUVB療法、エキシマライト(特定の波長の紫外線を乾癬病変に照射)を用いることもあります。重症患者には、シクロスポリンやメトトレキサートなどの免疫抑制剤、エトレチナートを内服します。最近では生物学的製剤の開発が進んでおり、重症乾癬患者さんのコントロールが上手く行えるようになってきました。当院は日本皮膚科学会が認定する「乾癬に対する生物学的製剤使用承認施設」であり、重症の乾癬患者さんに対する生物学的製剤の導入は当院で行うことができます。
以上のように、現在、治療の選択肢は、外用、光線、内服、生物学的製剤と多岐にわたります。当院では、患者さんの重症度を中心に、生活上の利便性や希望なども勘案して最適な治療法を選択するように心がけております。
掌蹠膿疱症
(しょうせきのうほうしょう)とは
- 掌蹠膿疱症とは、何の前触れもなく手のひらや足の裏(主に手のひらでは親指の付け根の部分、足の裏では土踏まずの部分あたり)に小さな水疱が多発して膿疱化、そして周囲に紅斑がみられる状態を言います。角質が肥厚して硬くなります(紅斑鱗屑性局面)。手と足に同時にできることもあれば、どちらかしか発症しないこともあります。足だけにしか出ない場合は水虫(足白癬)や湿疹(異汗性湿疹)と鑑別して治療に当たることが必要となります。必要とあれば小水疱の皮膚生検を行って診断を確定します。
- 主な症状ですが、かゆみや、患部がひび割れして痛むということがあるほか、爪が点々とへこむ、もしくは爪が肥厚するといったことも現れるようになります。膿疱(水疱)については2~4週間の間隔で繰り返し発生し、これが慢性的に経過していきます。
- なお原因につきましては完全に特定されたわけではありませんが、喫煙、歯科金属アレルギー、扁桃腺炎といったことが関与しているのではないかと言われています。禁煙やう歯・扁桃炎の処置をすることで症状が改善することが期待されます。とくに禁煙指導は有効で、必要に応じて禁煙外来へ受診いただくようお勧めしています。掌蹠膿疱症の患者さんの約10%の方で関節炎が発症することがあります。
治療について
- 治療に関しては、長期に渡って喫煙をしている方であれば禁煙が効果的です。また扁桃肥大があるという方は、扁桃腺を摘出する手術をするか、扁桃腺炎に有効な薬物療法(漢方薬など)を行っていきます。歯科金属アレルギーが原因という場合は、金属の詰め物をセラミックなどに代えるようにしていきます。
- また皮膚症状についてはステロイド外用剤の使用をはじめ、ビタミンD3外用剤、紫外線療法などが用いられます。症状がひどい場合は、エトレチナートやシクロスポリン(免疫抑制剤)の内服を使用します。難治例では生物学的製剤の導入も考慮します。
結節性痒疹
(けっせつせいようしん)とは
- 結節性痒疹とは、慢性痒疹のひとつです。結節とは、一般的にはしこりと呼ばれるもので、この場合は強い痒みのある結節状の丘疹(5mm~20cm)が散らばっている状態を言います。あまりの痒さから掻き壊すなどして、結節状になっていくわけですが、これらが融合して局面が形成されないことが結節性痒疹の特徴のひとつです。
- 痒疹の発生には、虫刺されやアレルギー、アトピー素因などが関係しているとされ、生じたかゆみに耐え切れずに爪を立てるなどして患部を掻き続け、それが硬くてしこりのようになってしまっているのが痒疹です。痒疹は掻くことでかゆみがさらに強くなってしまっている悪循環な状態とも言えます。かゆみが極めて強く治療抵抗性のものでは、必要に応じて腎障害、肝・胆道系疾患、血液疾患、内分泌異常、悪性腫瘍の有無をスクリーニングします。
治療について
治療ではステロイド外用剤を使用するか、密封療法(ODT)を行っていきます。またステロイド外用剤の塗布に追加して、亜鉛華軟膏シートを用いることもあります。さらにかゆみの症状が強いという場合は、抗ヒスタミン薬を内服するようにします。
ステロイド外用でも痒疹結節が縮小せず持続するときには、活性化ビタミンD3軟膏の外用が有効なことがあります。病変がそれほど大きくなく病変数も多くなければ液体窒素療法も適応できます。紫外線療法の有効例は比較的多いです。しかし週に1〜3回と通院が頻回となるので、患者さんの事情を考慮して治療を開始します。抗菌薬(ロキシスロマイシン、クラリスロマイシン、ミノサイクリン)などが有効なことがあります。
扁平苔癬(へんぺいたいせん)とは
- 皮膚や粘膜が慢性的に炎症を繰り返すことで起きるとされ、発症間もない頃は赤や紫っぽい色をした丘疹あるいは扁平隆起性の紅斑がボツボツとできるようになり、その中央は陥没しています。それらは時間の経過と共に広範囲に及び、かさつくようになっていきます。発症しやすい世代は40~50代で、女性の患者数がやや多いと言われています。
- 発生する部位については、手背、前腕伸側、下腿伸側などの四肢伸側に好発し、かゆみが伴うこともあります。ちなみに口内に発生する場合は、網状の白い発疹がみられますが、痛みが出ることが少ないため、自覚症状が現れにくいということがあります。このほか、手の爪などに萎縮性の変形がみられることがあります。
- 原因については、はっきり特定されたわけではありませんが、薬剤の使用、化学薬品、金属アレルギーによって起きるとされ、これらは免疫細胞の異常ではないかと考えられています。そのほかにもC型肝炎や骨髄移植との関係性も指摘されています。とくに、口腔粘膜に生じた場合にはC型肝炎ウイルスとの関連が高いことが知られています。
治療について
薬剤が原因という場合は、その使用を中止します。ただし、皮膚症状が完全になくなるまでは数週間かかることもあります。皮膚症状を抑える治療としては、ステロイド外用剤を用います。口腔に粘膜疹を認める場合には、ステロイド咳嗽薬を用いますが、服用しない(飲み込まない)ように注意していただきます。ステロイド外用剤で治りにくい場合に、タクロリムス軟膏が有効なこともあります。
類天疱瘡(るいてんぼうそう)とは
- 自らの体を攻撃する免疫物質のことを自己抗体と言いますが、これによって水疱(水ぶくれ)ができている状態が類天疱瘡です。高齢者(60~90代)に発症しやすく、表皮下に発生しますが破れにくく、多発するというのが特徴です。そのほか、かゆみの症状がある浮腫性の紅斑が伴うことも多いと言われています。感染症ではありませんので、他人に伝染するということはありません。この水疱性の類天疱瘡がある場合、悪性腫瘍を併発している可能性も考えられることから、必要とあれば悪性腫瘍のスクリーニングを行います。
- 診断と病勢のモニタリングのためには抗BP180抗体の測定が有用です。糖尿病治療薬であるDPP-4阻害薬内服者に生じることもあります。中等症以上は指定難病に含まれます。
治療について
診断を確定したのち、症状が軽度な場合はステロイドの外用剤でコントロールできますが、通常ステロイド薬の内服薬と外用剤を併用するようにします。シクロホスファミド等の免疫抑制薬、DDS、テトラサイクリンとニコチン酸アミドの併用療法も有効です。症状が重い場合は、免疫グロブリン大量静注療法や血漿交換療法を併用することがあります。
水疱に細菌が入らないように普段から清潔を保ち、皮膚が擦れやすい衣服やベルトで体を締め付けないようにするといった対策が大切です。
アトピー性皮膚炎とは
- アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹の悪化と軽快を慢性(乳児で2か月、その他では6か月以上)に繰り返す炎症性皮膚疾患です。日本では青年の約1割にみられます。全身の乾燥皮膚に加え、湿疹病変が左右対称性にみられることが特徴です。
アトピー性皮膚炎は、乳幼児や小児に発症するケースと成人でみられる場合の2つに大きく分けられます。主な症状ですが、かゆみの強い湿疹が全身にみられます。そのかゆさから爪を立てて掻くようになるとさらに症状を悪化させてしまうことも珍しくありません。そして、この湿疹が良くなったり、悪くなったりを慢性的に繰り返していきます。原因については現時点で完全に特定されてはいませんが、本人にアトピー素因がある、もしくは家族の方にアレルギーの方がいるとかかりやすいと言われています。 - なお同疾患は発症する年齢によって、症状が異なるという特徴があります。乳幼児期では、生後半年から症状が見受けられ、水分が多く含まれた湿疹が、顔、頭、耳などで見られ、耳切れ、肘や足首などの関節部分に湿疹がみられます。そして2歳の頃になると頚部や手足の屈曲部、腋の下などで、カサカサした湿疹が見られるようになります。
また、かつては子どもの病気と考えられていたアトピー性皮膚炎ですが、最近は成人になっても治らない、成人になってから発症したというケースもよく見受けられるようになりました。 - 病勢を推察しうる検査として、末梢血好酸球数、血中IgE値、血中LDH値、血中TARC値があります。これらの検査により炎症の程度が数字となって表れるので、治療効果の判定が一目瞭然となり、患者さんが治療を続けていくためのモチベーションを高める効果があります。また、皮膚に炎症があると、「ザラザラ」など皮膚の立体的な変化を触知しますので、触診も炎症の程度を診るための大切な検査です。
治療について
アトピー性皮膚炎は、完治させるのは困難ですので、主に対症療法となります。皮膚症状につきましてはステロイドの外用剤を使用し、かゆみの症状が強ければ抗アレルギー薬の飲み薬を用います。タクロリムス軟膏は、ステロイド外用薬でみられる皮膚萎縮の副作用がないため、顔面や頸部など薬剤が吸収されやすくステロイド外用薬の副作用が出現しやすい部位の皮疹に対して、特に高い適応があります。外用開始初期に熱感など刺激症状が出現することがありますが、外用を続けていくとこれらの刺激症状は次第に軽快していきます。
またアトピーを発生させる原因が判明していれば、それを除去していく対策も必要です。悪化の理由を考えるうえで、いつ頃から今回の皮疹が出現または悪化したか、どのようなきっかけで良くなったり悪くなったりするか、を問診することが大切です。
症状が軽快したのちも、治療を完全に止めるのではなく、悪化するのを予防する目的で維持療法を続けていくことが必要です(プロアクティブ療法)。最近ではデュピルマブという注射薬を用いた治療も開発され、重症のアトピー性皮膚炎患者さんには朗報です。デュピルマブの導入は当院でも行っています。
最近ではデュピルマブという注射薬を用いた治療も開発され、重症のアトピー性皮膚炎患者さんには朗報です。デュピルマブの導入は当院でも行なっています。
帯状疱疹とは
- 帯状疱疹は、これまでに水痘帯状疱疹ウイルス(水ぼうそう)に感染したことがあるという方に発症する病気です。水ぼうそうを発症した方の多くは子どもの頃に罹患されたことと思われますが、その際に水疱などの発疹が体中に見られ、これが一週間ほどでかさぶたになって治ったという記憶があるかと思います。ただ症状は治まったとしても原因となる水痘帯状疱疹ウイルスというのは体外に排出されることはなく、実は神経に潜んでいるのです。そして、体調を崩したり加齢などが原因で免疫力が低下するようになると、潜伏していた同ウイルスが活性化するようになります。
- 主な症状ですが、神経症状と皮膚症状に分けられます。最初は神経痛のような痛みが出ます。ちなみにこの痛みは皮膚症状(発疹)が出る数日前からみられることが多いです。その痛みの程度につきましては人それぞれです。例えば、軽い知覚刺激で済むこともあれば、運動神経麻痺をきたすこともあります。いずれにしましても皮膚症状が軽微になる頃には、痛みの程度も軽くなっていきます。
- また皮膚症状ですが、帯状になった小水疱が痛みを感じた部位から数日後に生じるようになります。主に胸から背中、腹部あたりに発疹は現れますが、ほかにも顔、手、足に出ることもあります。なお耳の周囲で罹患するようになると難聴や末梢性顔面神経麻痺をきたすこともあるので要注意です。そのほか、発疹と同時に頭痛や発熱などの髄膜炎の症状がみられることもあります。
- 発症から回復までの期間についてですが、痛みを感じてから帯状の小水泡(水ぶくれ)が膿み、かさぶた(痂疲形成)になるまで2~3週間ほどかかります。ただし皮膚症状が回復したとしても発症時に伴っていたチクチク、ピリピリした感覚などの痛みが消えず、長い期間痛みが残る可能性もあります(帯状疱疹後神経痛)。このような疼痛は帯状疱疹患者全体の約5〜10%にみられ、とくに高齢者や糖尿病患者の方に多くみられます。ちなみに帯状疱疹は1度かかれば免疫力がつくことから、通常は再発することはありません。
治療について
- 治療の基本は抗ヘルペスウイルス薬の内服になります。皮疹出現後5日以内に投与開始することが望ましいとされています。重症の場合は入院していただき、抗ヘルペスウイルス薬の点滴療法を行っていきます。また痛みはあまりないという場合でも、合併症が発症することも考えられますので、お早めにご受診ください。痛みが強く出ていれば、薬物療法として痛み止めを使用していきます。
- ちなみに重症の基準は、
-
- ①
- 免疫低下を伴う基礎疾患をもつ症例
- ②
- 皮疹が広範囲で、激痛を伴う症例
- ③
- 中枢神経合併症が疑われる症例(頭痛、発熱、悪心、嘔吐など)
- ④
- 運動神経麻痺を伴う症例(四肢の麻痺、尿閉、便秘など)
- ⑤
- 三叉神経第一枝領域に皮疹が認められ、眼合併症、顔面神経麻痺、内耳障害を伴う。
- などが挙げられます。
蕁麻疹(じんましん)とは
- 蕁麻疹とは、赤い発疹(紅斑)や赤い膨らみ(膨疹)が突発的に発生し、激しく掻きむしりたくなる症状のことを言います。これは全身どこでも発生するものですが、わずか数時間~24時間以内のうちに発疹は跡形もなく消えていきます。なお、蕁麻疹は、皮膚だけでなく口や喉などの粘膜にも発生し、咽頭部に生じると嗄れ声、呼吸困難を起こすこともあり注意が必要です。
- 発症の流れを簡単に説明すると、まず肥満細胞から化学伝達物質(ヒスタミンなど)が放出され、血管透過性を亢進させます。これによって真皮上層に浮腫が形成されるのですが、これが蕁麻疹となるのです。
- なお蕁麻疹は、原因不明なものと原因が明らかな場合の2つに分けられますが、原因不明のものを「蕁麻疹」と言います。この場合は突発性蕁麻疹と呼ばれることもありますが、さらに症状によって急性と慢性に分類されます。
- 急性蕁麻疹は、発症後6週間以内に症状(発症したり消えたりを繰り返す)が治まるものを言います。そして6週間以上続くと慢性蕁麻疹と診断されます。症状の現れ方は、急性も慢性もほぼ同じです。ただ、継続期間によって区別されているだけです。ちなみに皮疹の程度や持続時間などは患者さんによってまちまちです。
- 一方、原因が判明している蕁麻疹には、皮膚や粘膜に接触した物質が浸透することで生じる接触蕁麻疹(アレルギー性と非アレルギー性に分類される)、皮膚への直接的な刺激が原因で起きる物理性蕁麻疹(皮膚を掻くなどして起きる機械性蕁麻疹、日光の刺激によって生じる日光蕁麻疹、冷風や寒風などの刺激が原因の寒冷蕁麻疹など)のほか、体温が上昇し、汗を掻くことで起きるコリン性蕁麻疹などがあります。
治療について
- じんましんの原因が特定されていれば、原因物質との接触を避けていきます。例えば薬物によるアレルギー性蕁麻疹の患者様であれば、速やかにその薬物の使用を中止するようにします。
- また原因が不明とされる突発性蕁麻疹も含めた対処療法もあります。具体的には、かゆみの症状が出ていれば、それを抑える抗ヒスタミン薬を用います。抗ヒスタミン薬は高い効果を期待できますが(奏効率は50〜70%)、一定の割合で無効例がみられます。効果不十分例では、他剤への変更や増量などの工夫をします。重症の場合は、免疫抑制薬やステロイドの内服薬を使用することもあります。多くの方は数日で症状が治まるようになります。ただ、症状がなくなったとしても自己判断で薬物療法を止めるようなことはせず、医師の指示に従うようにしてください。通常慢性蕁麻疹では、抗ヒスタミン薬によりまったく症状が現れなくなった後に2か月程度内服を続け、その間無症状であれば内服量を漸減していきます。
尋常性白斑とは
- 尋常性白斑とは、20歳前後の若い世代によく見受けられる疾患で、生後にメラノサイトという細胞が減少、または消失してしまうことで、白斑(脱色素斑)が皮膚表面で形成されている状態を言います(皮膚の一部の色が抜け、部分的に白くなっている)。明らかな原因は現時点ではわかっていませんが、自己免疫が関係しているのではないかとも言われています。
皮疹が全身に汎発している場合、他の臓器特異的な自己免疫疾患の併発に注意します。橋下病やバセドウ病などの自己免疫性甲状腺疾患、I型糖尿病、膠原病、関節リウマチ、円形脱毛症を合併する頻度が高いと言われています。 - 同疾患は、顔、手、胸部、背部など様々な部位でみられるようになります。また尋常性白斑によく似た症状というのは、他の疾患(限局性白皮症、白斑性母斑、老人性白斑、原田病、白斑黒皮症、癜風、ハンセン病 など)でもよくみられることからしっかり鑑別していく必要もあります。
治療について
ステロイド薬の外用剤、活性型ビタミンD3軟膏(紫外線療法と併用)、タクロリムス外用のほか、ナローバンドUVBやエキシマライトなどの紫外線療法など使用していきます。紫外線療法は週2回の照射を最低でも15〜20回を施行します。色素再生が見られるパターンとして、毛包周囲型(毛包に存在する未熟メラノサイトの分化誘導)、辺縁型(辺縁部正常メラノサイトの遊走)、びまん型(表皮内に残存した成熟メラノサイトの機能回復)の3パターンがあります。
脂漏性皮膚炎とは
- 皮脂分泌が活発とされる部位で発症するのが特徴で、乳児と思春期以降の成人に発症します。どちらの場合でも、頭部、顔面、わきの下、頸部、陰部といった脂漏部位や皮膚の表面同士が擦れやすい間擦部で症状がみられるようになります。皮膚の常在真菌であるマラセチアや皮脂の分泌量・組成の異常、ビタミン代謝異常などが病態に関わっていると言われています。軽快と増悪を繰り返し、再燃しやすい疾患です。
- なお乳児の脂漏性皮膚炎では、生後2~4週頃から、頭やおでこに黄色がかったかさぶたが発生するようになりますが、1歳になる頃までには自然と剥がれていき、軽快するようになります。成人で発症する場合は、発症部位から慢性的にふけのようなものがボロボロと落ちていきます。なお成人の場合は治りにくく、頭皮の一部が赤くなる、あるいは硬くなっている部位がみられます。きちんと頭を洗っているにも関わらず、フケが増えてしまうということもあります。
治療について
- 乳児の場合は、自然と治癒していくので、患部のかさぶたを無理にとろうとはしないでください。シャンプーや石鹸を使うなどして、脂漏部位を清潔に保つようにします。また、症状が強く出ている、アトピー性皮膚炎が疑われるという場合は、弱めのステロイド薬を使用します。
- 成人の場合も患部を清潔に保つほか、フケがひどい場合はマラセチアに対して抗真菌薬の外用薬、抗真菌薬が含まれるシャンプーを使用していきます。このほか、ステロイド外用薬を使用することもあります。
抗真菌薬(ケトコナゾール)は効果の出現に時間を要しますが、副作用も少なく、中止後も再燃までの期間が長いと言われます。一方、ステロイド薬は即効性を示しますが、外用を中止すると再燃しやすいです。
肥厚性瘢痕とは
- ケガや手術によってできた傷が修復される際に皮膚の再生がうまくいかなくなり過剰となることで、傷が盛り上がってしまい目立っている状態です。
- なお肥厚性瘢痕とよく似た症状を呈するものとしてケロイドがあります。両者の明確な違いというのは定かではありませんが、傷の範囲を超えて広がるなどしている重度なケースをケロイド、軽度で傷の範囲を超えないとされているのが肥厚性瘢痕です。いずれの場合においても、炎症がいつまでも治らないままでチクチクとした痛みやかゆみがみられることがあります。
- このような状態は誰しもがなるということはなく、ケロイドになりやすい体質の方に起きやすいと言われています(遺伝的体質)。首から下の部分(肩、胸、二の腕 など)に好発しますが、原因としては傷以外にも虫刺され、にきび、ピアスの穴開けといったことで見られます。
- 治療に関しては、炎症を抑える治療として、ステロイド薬の外用や貼付剤を使用したり、局所注射を行います。また傷がついた際の予防法としてシリコンジェルシートを貼るようにします。手術によって切除するという治療法もありますが、これは切った傷から、また発生する可能性があるので注意が必要です。
ニキビとは
- ニキビは青春のシンボルとも言われますが、これは正式には尋常性ざ瘡と呼ばれる皮膚疾患でもあります。多くの場合、皮脂の分泌が活発となる13~20歳までに発症するケースが大半ですが、成人後であっても不規則な生活を続けているとニキビが発症しやすくなります。発生する要因としては、現時点で完全に特定されたわけではありませんが、ホルモンの乱れやストレス、ドライスキン、毛穴の汚れ、アクネ菌の繁殖、睡眠不足などが挙げられています。
- また発症のしくみですが、ニキビは皮脂の過剰な分泌と毛穴の詰まりが原因と言われています。この皮脂が毛穴に詰まったままだと、やがて面皰(めんぽう)の状態になります。この面皰が栄養源となって、ニキビの元になるニキビ菌(アクネ菌)は増殖するようになるのですが、増殖するにあたって膿を含む赤いブツブツが発生するようになります。これがいわゆるニキビで、主に顔や胸、背中といった皮脂の分泌が多いとされる部位でよく発生します。なお、ニキビは一度発症すると治りにくく、また症状を悪化させてしまうと袋状のしこりや痕が残ることがあり、将来的にも影響が出るようになることもあります。そのため、たかがニキビと考えず、痕をのこさないためにも皮膚科などの医療機関を受診するようにしてください。
治療について
- ニキビの治療法としては、アダパレン、過酸化ベンゾイル、外用抗菌薬を組み合わせた外用併用療法を行います。初診時には面皰の有無や重症度、炎症の有無や炎症後紅斑の状態などを確認します。片側の炎症性皮疹(紅色丘疹と膿疱)の個数によって、軽症(5個以下)、中等症(6〜20個)、重症(21〜50個)、最重症(51個以上)に分類されます。
- このほか、日頃からスキンケアもしっかり心がけていくことも大切です。具体的には、石鹸をよく泡立ててから洗顔し、皮脂ができるだけ毛穴に詰まらないようにしていきます。また生活習慣の見直しも必須で、栄養バランスのとれた食事に努める、睡眠不足を解消させる、できるだけストレスを溜め込まないといった対策も大切です。
手湿疹とは
- キッチンや洗濯など水を使う家事、紙を頻繁に扱っている仕事をするなどして、手の皮脂や角質が落ちてしまい、それによって皮膚のバリア機能が弱まり、物をつかむなどの物理的な刺激にも皮膚が過剰に反応してしまったり、刺激物が侵入しやすくなるといったことで、手に様々な皮膚症状が現れているのが手湿疹です。
- 具体的な症状としては、手のひらや指が全体的に乾燥してしまい、手の皮がボロボロと剥けてしまっている状態を言います。これが悪化すると、水ぶくれや亀裂などもみられるようになります。なお、手湿疹はアレルギー体質の方によく見られやすいとされ、原因となる家事や仕事を止めない限りは治りにくいとも言われています。
- 手湿疹の対症療法としては、ステロイド外用薬や保湿薬を使用した薬物療法となります。ステロイド外用薬単独では逆にバリア機能を低下させるため、保湿剤を併用することが大切です。同治療によって、1~2週間ほどで症状は改善していくようになります。角化が強くなった場合には、難治になる場合が多く、この場合にはエキシマランプなど紫外線療法を追加します。
発症の原因となる家事や仕事などを行っている限りは再発することは確実です。したがって、日頃より手を保湿・保護するスキンケアというのが必要になります。
接触性皮膚炎とは
接触性皮膚炎とは、一般的にかぶれと呼ばれているものです。これは、何かしらの物質が皮膚に触れたことで起きる湿疹のことです。接触皮膚炎は、さらに「刺激性皮膚炎」と「アレルギー性皮膚炎」に分けることができます。刺激性接触皮膚炎は、原因物質が持つ刺激や毒性によってかぶれ、アレルギーには無関係なため、誰にでも起こりえます。
アレルギー性皮膚炎は原因物質(アレルゲン)に繰り返し触れることで湿疹が現れます。原因となっている刺激を除けば比較的簡単に治すことが可能です。
金属アレルギー
金属がアレルゲンとなって生じるアレルギー性接触皮膚炎を、金属アレルギーと言います。金属が汗などと反応して金属成分が微量に溶け出し、イオン化した金属が皮膚に吸収されて反応する事でアレルギーが発症すると考えられています。
原因となる金属
ニッケル、コバルト、クロムの頻度が高いです。
- ニッケル
- ピアスやネックレスなどのアクセサリー、腕時計、ベルトのバックル
- コバルト
- 歯科用金属やセメント、インクや絵の具などに含まれています。
- クロム
- 革製品やなめし剤、セメントなどに含まれています。
- 湿疹が現れたら、まずは原因物質を特定することが肝心です。数時間前までさかのぼり、原因物質を洗い出しましょう。「アレルギー性皮膚炎」の場合も、いつ、どんな時に、どこに湿疹が現れるのかを、症状が現れるたびに記録しておくと、原因を特定しやすくなります。
思い当たる原因物質がない場合には、ユニットにあらかじめスタンダードアレルゲンが付着されているキットを用いることでより簡易にパッチテストを実施できます(パッチテストパネルS)。通常、背部や上腕外側の外見上正常な場所に48時間貼付し判定します。さらに72時間後または96時間後、そして1週間後に判定を行います。 - 中程度以上の症状がある場合は、原因の特定と並行して、薬剤による治療を行います。治療法としては、ステロイド外用薬などの塗り薬と、痒みが強い場合は抗ヒスタミン剤の服用が効果的です。症状が重症であれば、ステロイド薬を内服することもあります。
皮脂欠乏性湿疹とは
- 加齢や過度な洗い過ぎによって皮脂が減少している状態を乾皮症と言います。この状態になると角層は破壊されているので外からの刺激を受けやすくなっています。これに炎症が加わるなどして湿疹化しているのが皮脂欠乏性湿疹です。環境湿度が低下する秋〜冬の季節に起こることが多く、皮脂分泌の少ない思春期前の小児や高齢者によくみられます。
- 主な症状は、皮膚の表面がカサカサしている、または白い粉をふいたような状態で、ひび割れが生じるとかゆみや痛みもみられます。ただ多くの場合、これは日本の高齢者によくみられる特徴ですが、入浴中などにタオルなどで必要以上にこすりすぎるということが原因で起きることが多いです。そのため、まずは入浴習慣の見直しから始めるようにします。
- 治療をする場合は、肌を乾燥させないようにする必要があるので保湿剤を使用していきます。乾皮症だけでなく、湿疹の症状(皮脂欠乏性湿疹)があるという場合は、ステロイド外用薬による治療をします。かゆみがある場合は掻破により湿疹性病変が悪化するので、抗ヒスタミン薬の内服を行います。その後は保湿剤などでスキンケアをしていきます。
足爪白癬(水虫)とは
- 足の爪にできる水虫のことを足爪白癬(水虫)と言います。なかでも足の親指の爪に発症することが多く、この場合、足白癬(足の水虫)がきっかけとなって続発的に発症することが大半です。
- なお水虫の原因となる白癬菌というのは、真菌(カビ)の一種です。これが足の裏や足の指の間などに寄生することで発症するようになります。感染するとその部位にあたる皮膚(患部)がジュクジュクあるいはカサカサし、かゆみの症状が現れるようになります。ちなみに足白癬が感染する原因としては、不特定多数の人が履いたスリッパの使用、多くの人が共用する足拭きマットの利用などが考えられています。ただ白癬菌が足の皮膚表面に付着したとしても24時間以内に足をきれいに洗うことができれば感染は予防できます。
- また足爪に白癬菌が感染した際にみられる主な症状ですが、まず爪の先端が白濁するようになります。その症状はやがて爪母側にどんどん進行していきます。これによって爪そのものが弱体化していき、爪切りなどで爪を切った際に粉末状になるなどボロボロに崩れるようになります(手の爪の場合も同様です)。そのほか、白色や黄色に爪が濁ることもあります。そのほか、かゆみや痛みといった自覚症状が現れにくいということもあります。
治療について
爪に白癬菌が感染している場合は、抗真菌薬の内服薬が用いられます。最新の飲み薬は3か月間の内服で治療は終了します。あとは爪の根元からきれいな爪に生え変わるまで(通常1年間)経過を観察します。内服薬が飲めない場合には抗真菌薬の外用を行います。爪に浸透して効果のある外用薬がありますので、1年間の外用で根治させることは可能です。悪化や再発のための予防策として、足をよく洗って清潔にする、部屋の風通しをよくするといったことも大事です。とにかく足を湿らせた状態のままにしないようにしてください。
尋常性疣贅(イボ)とは
- 尋常性疣贅(イボ)とは、一般的にはイボと呼ばれているものです。これは皮膚のあらゆる場所で起きるもので、皮膚の一部が盛り上がることで生じる小さなできものです。主な原因ですが、ヒトパピローマウイルス(HPV)が小さな傷口などから侵入することで発症します。なお、ヒトパピローマウイルスは接触感染しますので、同ウイルスの付着した部位に接触すると人から人へと感染が広がる可能性もあります。ただ、他人に感染するリスクはそれほど高いものではありませんので、過度に罹患者との接触を恐れる必要はありません。
- イボは、年代に関係なく発症しますが、なかでも子どもにできやすく、高齢者になるとできにくくなります。手足にできやすく、また傷が発生しやすい箇所(膝、顔面、肘、爪の周囲 など)でもみられやすいです。イボそのものは、硬い突起状で表面がザラザラしたもので、自覚症状はありません。大きさは直径1cm未満のものが大半で、形は円形か不規則、色は黄色、茶色、灰色などです。またイボはポツンと1つできることもあれば多発することもあります。足底ではウオノメとの鑑別が重要です。簡単な鑑別法として、イボを虫眼鏡で拡大して観察すると古い点状出血を認めれば疣贅であることを知っておくとよいでしょう。
- 主な治療法ですが、液体窒素によってイボを冷凍凝固させ、かさぶたにして小さくする冷凍療法がよく行われます。通常、一回の冷凍凝固ではイボが除去できることはありません。
1〜2週に1回のペースで数ヵ月ほど通院することになります。多発している場合、大きい場合にはヨクイニンの内服を併用します。その他の治療法としては、サリチル酸を貼ってイボを除去する方法や炭酸ガスレーザーを使用しての除去という場合もあります。
伝染性軟属腫とは
- 伝染性軟属腫は、一般的には水イボと呼ばれている疾患です。伝染性軟属腫ウイルスに感染することで発症するようになるわけですが、感染すると2~10mmほどの光沢がある半球状の水疱ができます。かゆみや痛みなどの自覚症状はありませんが、これが潰れてしまうと白いかたまりが出るようになります。これにはウイルスが詰まっているので、これが他の部位につくなどしてしまうと、イボはさらに広がるようになります。
- 水イボは、主に幼児~小学校低学年の児童に発症しやすく、アトピー性皮膚炎を発症しているお子さんなどで皮膚バリア機能が低下している場合によく起きると言われています。また、皮膚バリア機能が正常なお子さんであっても夏場のプールで使用する浮き輪やビート板、タオル等を共有するなどして感染することもあります。そのため、夏の季節によく発症します。ちなみに水を介してはうつりにくいとされています。
- 治療に関してですが、これといった治療をしなくても免疫抗体ができるようになるので、放置をしたままでも半年~3年ほどで消えていくようになります。ただ自然治癒に関しては個人差が大きく、治癒までの正確な時間は予想できません。
- 水イボを専用のピンセットで一つずつ潰していくことで内容物を取り除き、その後は抗菌薬の外用剤を塗布するという方法で確実に治癒できます。潰す際に痛みが生じやすいので、痛みに耐えられないと考えられる場合は、事前に局所麻酔テープを貼ってから行います。ただ、このようなピンセットを用いて水イボを摘み取る方法(軟属腫摘除)ですが、現在では施行する機会は減ってきています。世界的には経過観察しながら自然治癒を待つというのが一般的な流れにあるようです。
- それでも水イボを摘除しないと子供たちがプールに入れてもらえない場面も多いようで、積極的な治療を希望される保護者の方もおられます。そういった方々のために、当院では銀イオン配合の保湿クリームを用意しております。銀のもつ抗菌力を水イボ治療に応用できるクリームで、ある研究によると2か月塗ると80%の方に有効だとのことです。
蜂窩織炎とは
- 蜂窩織炎(ほうかしきえん)とは、皮膚とその下の組織に細菌が感染し、炎症が起こる病気です。蜂巣炎(ほうそうえん)とも呼ばれます。皮膚の細菌感染症の中では、比較的頻度の高い病気です。
- はじめに患部の皮膚に赤み、腫れ、熱感、痛みが出現し、急速に広がります。発熱、悪寒、倦怠感などを伴うことも多くあります。足のすねの部分や甲によく発生しますが、他の部位に起こることも多いです。通常は同時に複数の部位に発症することはありません。
蜂窩織炎の検査と診断
医師の病歴聴取、患部や全身の診察で行なわれます。症状がひどい場合は炎症の程度をみるため血液検査を行なうこともあります。血液検査では、通常は白血球数やCRP(炎症反応の数値)が上昇しています。患部に膿(うみ)がない場合も多く、培養で細菌を検出することは困難です。また原因になる菌の大部分が黄色ブドウ球菌のため、特殊な場合以外を除いて培養は行なわれません。
蜂窩織炎の治療
抗菌薬による薬物療法を飲み薬または点滴で行ないます。蜂窩織炎の原因になる細菌には数種類ありますが、前述したように大部分は黄色ブドウ球菌であり、第一世代セフェム系などの抗菌薬を投与します。通常の薬剤投与期間は5~14日くらいですが、炎症の程度、治療を開始した時期、原因菌、患者さんの免疫力などによって異なります。
皮膚がんとは
皮膚から発生した悪性腫瘍全体のことを“皮膚がん”といいます。一口に皮膚がんと言ってもたくさんの種類があります。全身に転移を来して生命を脅かす皮膚がんもあれば、手術で完全に取りきれば後はもう安心、といった皮膚がんもあります。同じ皮膚がんでも悪性度はさまざまなのです。ここでは代表的な皮膚がんである、①基底細胞がん、②有棘細胞がん、③ボーエン病、④日光角化症、⑤悪性黒色腫(メラノーマ)、について説明します。
主な皮膚がん
基底細胞がんとは
- 表皮の最下層である基底層には基底細胞があるわけですが、これとよく似ているとされる細胞が増殖することで発生すると言われています。多分化能をもつ表皮・毛嚢系幹細胞が悪性化したものと考えられています。発症には紫外線の影響が大きいと言われていますが、それ以外にも原因はあるのではないかと考えられています。
- 主な症状は、黒もしくは黒褐色の軽く盛り上がる結節で、ほくろと間違いやすいのが特徴ですが、表面は蝋を垂らしたような独特な光沢をもち(蝋様光沢)、その中央は潰瘍化します。周辺に黒くブツブツした結節がみられることもあります。これが目や鼻の周りといった顔の部位で見られることが多く、高齢者によく見受けられます。痛みやかゆみはなく、数年ほど経過してから腫瘤を形成するようになります。ダーモスコピーが診断に有用です。
- 基底細胞がんは、日本人の皮膚がんの中で最も多いがんです。ただ転移することがほぼないので、生命に影響することは、ほとんどないと言われています。治療を行う場合、基本は外科的切除(手術療法)となります。顔面に発生することが多い腫瘍なので、腫瘍を完全に切除することはもちろんのこと、見た目の仕上がりもきれいになるように考慮した手術計画を立てることが大切です。
有棘細胞がんとは
- 有棘細胞がんとは、表皮の中の有棘層にある細胞が悪性化することで発生するがんです。長期的に紫外線を浴び続けることで発症リスクが高くなるとされるがんで、その他にも熱傷やケガの傷跡などが原因となることもあります。性別は約3:2で男性に多くみられ、年齢は80歳代が最多。発生部位は顔面が最も多く4割強を占め、下腿、手背、頭部がこれに次ぎます。
- 顔や頭部、手、背中など日光がよく当たる部分に発生することが多い有棘細胞がんですが、発生部位で硬いしこりを感じ、その表面はかさかさになったりします。年単位でゆっくりと大きくなっていきます。形は不揃いで、大きくなるとカリフラワーのような形になっていきます。症状が進行するとその部位が潰瘍化するほか、細菌が付着して悪臭を放つようになります。さらに病状が進行するようになるとリンパ節や肺に転移し、生命に影響することもあります。
- 有棘細胞がんが疑われる場合、ダーモスコピーや病理組織検査(皮膚を一部採取して、腫瘤が良性か悪性かを調べる)、画像検査(レントゲン、超音波検査、CT、MRI 等)などによって診断をつけます。治療は、手術療法による外科的治療が基本です。ただ、がんが進行しすぎた場合には、化学療法や放射線療法などが行われます。完全切除例の予後は良好で、症例全体の5年生存率は90%を超えています。全経過を通じて所属リンパ節転移は約10%に、遠隔転移は約3%に認められ(多くは肺)、転移例の予後は不良です(腫瘍死は約2%)。
ボーエン病とは
- ボーエン病は、60歳以上の高齢者に発症しやすい皮膚がんで、日光(紫外線)、ヒトパピローマウイルス感染、ヒ素中毒などが原因で引き起こされると言われています。増殖が表皮内に留まっている場合にボーエン病と診断され、表皮内有棘細胞がんの一つです。ちなみに、ボーエン病が浸潤性の有棘細胞癌に進行する確率は約5%程度といわれています。
- 発症当初は表面が赤くてザラザラした状態の皮疹が現れるようになり、形状は円形のほか、いびつな形になることもあります。発症部位としては、体幹によく見られますが、手や陰部などにもできることがあります。また見た目が湿疹と間違いやすいので、湿疹の薬(ステロイドなど)を使用する方もいますが、その場合は、逆に症状が広がるようになります。なお、放置がそのまま続けば、がん細胞が真皮に侵入して有棘細胞がんへと進行していきます。
- 診断をつけるための検査としては病理組織検査を行います。ボーエン病と診断されたら手術療法による外科的治療が基本となります。ボーエン病は進行が非常にゆっくりであることから場合によっては、凍結療法や薬物療法(ベルセナクリームの外用薬など)といった治療法を行うこともあります。また、ボーエン病患者さんではメラノーマ以外の皮膚がんの合併頻度が高くなるので、他の部位の皮膚がんの有無を注意深く診察する必要があります。多発する症例では内臓悪性腫瘍を合併する場合もあり注意が必要です。
日光角化症とは
- 日光角化症は有棘細胞がんの前段階の病変と言われています。これは、日光(紫外線)を浴び続けることで発症するとされる皮膚疾患で、50歳代から症状がみられるようになりますが、患者数としては70歳以上の方が大半です。ちなみに、日光角化症が浸潤性の有棘細胞癌へ進行する確率は10〜20%といわれています。
- 主な症状ですが、かゆみや痛みなどはありません。ただ、皮膚の表面がカサカサして赤くなるほか、かさぶたができるようになります。サイズや形状に関してですが、直径数mmから1cm程度の円形で輪郭のぼやけた発疹として見受けられます。これが、日光を浴びやすい、顔面、耳介、前腕、手背部の皮膚に発症するようになります。また日光角化症は、老人性疣贅(脂漏性角化症)と間違いやすいので、生検(皮膚の一部を採取して、顕微鏡で調べる検査)で診断をつけることもあります。
- 治療法については、外科的切除による手術療法、凍結療法、抗腫瘍薬軟膏(5-FU軟膏)、イミキモドによる薬物療法などが行われます(いずれも「皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第2版」で推奨度Bとして勧められている治療法)。ちなみに、組織学的な完全寛解率は凍結療法で32%、5-FU軟膏で67%、イミキモドで73%と報告されています。
悪性黒色腫とは
- 悪性黒色腫は、がん化した色素細胞のことを言い、メラノーマとも呼ばれています。そもそも色素細胞は、メラニン色素をつくる細胞のことで、表皮の基底層に存在するものですが、ここから発生する皮膚がんになります。この細胞が紫外線や外傷などの刺激によって、がん化すると言われています。
- 主な症状ですが、ほくろに似たしみのようなものが1~2年ほどの期間をかけて、だんだん大きくなっていきます。特徴としては、患部の色にムラがみられ、まだら模様に見える、6~7mmを超えて大きくなる、潰瘍ができるなどの特徴があります。発症部位については、皮膚のどの部分においても見られる可能性はありますが、日本人においておいては足の裏や手足の指先、爪でみられることが多いです。また皮膚以外の部位として、口腔内や眼球に発生することもあります。悪性黒色腫は他の臓器へ転移しやすく、注意が必要な皮膚がんです。メラノーマの患者数は皮膚がん全体の10%に過ぎませんが、皮膚がん死亡者数の40%をメラノーマが占めます。
- 発症世代としては、中高年世代が多いですが、若い世代でも発症することはあります。診断をつける際の検査としては、視診(ダーモスコピーなど)や皮膚生検などを用いて判定します。メラノーマの場合は、他の皮膚がんと違って転移をしやすいので、メラノーマの可能性が高いと思われる場合は、確定診断後すみやかに手術をできる態勢を整えたうえで生検することが重要です。
- 治療については、手術療法による外科的切除のほか、免疫療法、化学療法、放射線療法などが行われます。患部を手術によって完全に取り切れるという場合は、基本は外科的切除となります。ただし、手術が困難な場合や他の臓器へ転移した場合などは、免疫療法、化学療法、放射線療法といったものが用いられます。
メラノーマの進行例は非常に予後が悪く、厚みが4mm以上で潰瘍がある進行例では5年生存率は60%程度、遠隔転移を来した症例では5年生存率は21%と低率です。しかしながら、2011年以降メラノーマに対する高い有効性を示す新薬(免疫チェックポイント阻害薬、BRAF阻害薬、MEK阻害薬、など)が続々と登場し始め、切除不能や遠隔転移症例のメラノーマ全身療法が劇的な進歩を遂げてきています。そうはいっても、やはりメラノーマの治療で一番大切なことは、早期発見です。予後の悪いと言われるメラノーマですが、腫瘍の厚みが1mm以下で潰瘍がない早期病変であれば5年生存率は100%近いのです。成人以降に初めて気づいた黒色斑でサイズが6〜7mmを超えて増大あるいは色調や形が変化するようであれば、早めに皮膚科へ受診することを強くお勧めします。